『問題解決学としての統計学―すべての人に統計リテラシーを』

問題解決、というと、
いわゆる「問題解決の流れ」が紹介され、
いくつかの手法が紹介され、

…で? 具体的にはどう当てはめたらいいの?

という、ちょっと精神論かと思うような本が多い気がする。

枠組みだけを説明されても、活用できるものと、活用しにくいものがある。
問題解決というのは後者なのかもしれない。
ようは、ケース・バイ・ケースすぎて、公式から具体的な解が導けないのでは…?

 

そんなモヤモヤを感じていたときに出会って、
「こんな考え方があるのか!」と思った一冊。

なにしろ、統計学だ。
数学だ!
(いや、私が数学を愛してるから反応してるということではなく。もちろんそれもあるが)

 
   * * *
 

この本を手に取ったら、まずは「第Ⅱ部 問題解決とは何か」から読み始めてほしい。
あるホテルの朝食バイキング会場で実際に起こった事例を説明している。
宿泊定員1,300人。
朝食バイキング会場には460席。
お客様にはお部屋ごとに朝食時間を割り振って、
予約時、到着時、掲示物などで確認をしてきちんと守っていただけるようにしている。

…にもかかわらず問題は起きる。(そりゃそうだ。じゃないと問題解決ができない。)

会場の外で散々待たされる…
食べ物を取り終えるのも一苦労…
やっと取り終えても席がない…
追加でちょっと取りたくても、一番後ろから並ぶため、更に列が伸びる…

面白いのは、ここからです。

「ご案内時間にお客様が来てくださらないから、ある時間に集中してしまうのだ」
従業員は、そう思っていました。
…思っていました、ということは、実はこれは実態調査が必要だったのです。

その、実態調査の仕方も、すごい紹介をしています。
なんと…失敗例を載せているのです!

最初の方法でうまくデータが取れなかったこと。
次の方法でデータを取り統計処理をしたところ…予想外だったこと。
納得できず、何度もデータを取ってみたけれど、同じだったこと。
それでも納得いかず、追加調査をして、やはり予想外の結果が出たこと。

ここへ来てやっと、「ではそもそも何が原因なのか?」を皆が考え始めます。

「問題解決の流れ」で、最初に「問題の発見」と言いますが、
そこへ至るのがどれだけ大変か、ということが、実感できます。
問題の発見→データ収集→分析→解決案の立案→実施→検証、とよく紹介されていますが、
実際には、問題の発見のために、すでにデータ収集がそうとう必要なのだということがわかります。
ようは、「問題の発見と簡単に言うけれど、そんな簡単なことじゃない!」のです。

さて、思い込みではない本当の問題がわかったところで、
解決策を考え、実施して、この朝食バイキング問題は解決します。

もうひとつの事例も、手短ではありますが、ほぼ同じ流れであることを物語っています。

p.63に載っている「図3.6 問題解決型QCストーリーの流れ(要因解析から対策・効果の確認・歯止めへ)」
これこそが、本当に実際に使える問題解決の流れなんだなぁ…と思えてきます。
現状を把握し、目標を設定する段階で、統計学が使われているのです。

 

もちろん、問題解決には様々なタイプがあるので、すべてには当てはまりません。
例えば「新商品を開発しよう!」といった場合には、
ブレーン・ストーミングのような手法のほうが適しているでしょう。

それでも、原因を解明して改善するタイプの問題解決には、かなり有効なのではないでしょうか。
「これが問題解決の流れです。じゃあまず問題を立ててみましょう」といった安易な発想では、
解決すべき問題など発見できないのだということがわかるだけでも、非常に参考になる本です。

 
   * * *
 

ちなみに、第Ⅰ部は「新学習指導要領の導入で変わる統計教育」となっている。
平成20年および21年告示の新学習指導要領において、統計の大幅な拡充と必修化が謳われた。
小学校の算数、中学校および高等学校の数学で、「データにもとづく科学的な問題解決力をコンピテンシーとして定着させる、新しい枠組みの下での統計教育を指向」している。(p.23)
また、統計教育で先行している欧米の事例も紹介している。

第Ⅲ部「問題解決能力育成の実際」では「第5章 統計リテラシー開発に必要な実践的教材」を紹介。
内容は、企業内で実施した実践的品質管理教育を少し絞り込んで、高等学校で実践した授業内容と教材で、
紙飛行機を折る→品質分析→バラツキの原因を究明→独創的な”高性能紙飛行機”を開発する、というもの。

紙飛行機とあなどるなかれ。
世界大会も開かれているし、航空工学的にも研究対象となる。
実際にデータを取る中で様々な難しさも体験できる、面白い実践ではないだろうか。
統計学と問題解決を数学(あるいは情報)で教えることに困っている先生方には、一読をおすすめする。

 

問題解決学としての統計学―すべての人に統計リテラシーを
渡辺 美智子 (著), 椿 広計 (著) 、
日科技連出版社 (2012/12)

リンク先で試し読みができます↓

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です